日没

東京はクリームソーダの街らしい

檸檬

髪からは醤油の匂いがして、布団からは焦げた太陽の香りがした。誰かの待っている姿を想像できないのはわたしがずっと待っているからだろうか。1年前に、博物館の隅のソファで聴かせてくれた曲を思い出していた。“埃たまった記憶や思い出と 長く借りっ放しのアルバムやビデオ等” という歌詞が良いと思ったので聴き終わってからその人に ここの歌詞がいいですね と伝えたのを思い出した。他の歌詞も、その人と交わした他の会話もあまり覚えていない。

表現のしようがないくらいなんの変哲もない真っ直ぐに生えた草は、手で揉むとキュウリの匂いがするからキュウリ草というんだと教えてもらった。わたしの親戚は東京だけど山奥の方に住んでいて、絵描きのおばさんのためにおじさんが草や花を摘んできたりする。棒を持ってそこらへんにいる猫(半分飼い猫)を道案内して一緒に裏山を散歩しながら。摘んできた草花は家に帰って瓶に挿して、おばさんに花の名前を伝えるんだけどすぐ忘れてしまうって笑ってた。ね。笑えるくらい、いろんなことを忘れてしまうよ。

貝殻の切手はあと数ヶ月もしたら爽やかに見えるだろう。藍色のシュガーポットやあの娘が鳥と見つめ合ったこと、お父さんはサイダーが苦手だって知らなかったし5円玉に結ばれたリボンがポケットの中で解けてしまって、それからそれから、

もしかしたら明日死んじゃうかも なんて笑いながら。